5. オリーブを食べる

 「この小さく苦いオリーブの実を最初に食べたのは誰だろうか?」というのは、誰しもが想像することのようです。今日我々が当たり前に食べている穀物、果樹、家畜などが、いつ頃どのような方法で食べ始められ、品種改良され、新しい食べ方生み出していったかという食物の歴史は、「最も記録の残っていない分野の一つ」と食文化の研究家から聞きましたが、オリーブも然りです。最初からオリーブを搾りオイルを作ったのではなく、まずは実を食べたであろうと考えるのが自然でしょう。オリーブの実は、かじるととてつもなく苦く、ほとんど食べることが出来ません。オリーブの漬物を作っている人は、きっとどこか海岸で塩水に浸かったオリーブの実を口にしたのではと想像しています。

 オリーブの果実を漬けたものは一般に“テーブルオリーブ”と呼ばれています。現代では“果実の糖分を乳酸に変えた保存食”と科学的な説明ができますが、古代の人々が試行錯誤と伝承で得た結晶と言えます。今日のテーブルオリーブの作り方には、塩水で渋を抜く、水出しで渋を抜き味付けの塩水につける、水を加えず塩漬けにする、近年開発された苛性ソーダを使う方法などがあります。また古代にもあったと思われる“木についたままの漬物”の方法は、木で十分に太陽を浴びた結果です。輝く陽の光のイスラエルでオリーブの古木を見ると、きっとそういう食べ方もあったのだと自然に想像できます。国ごとに伝統的スタイルがあり、果実の色はグリーン、ブラック、種のありなし、種を抜いて詰め物をする、実を刻むなど多様です。テーブルオリーブにも三段階の国際品質基準があります。

 人間が最初に使い始めた油は旧石器時代、狩猟で捕った動物の脂肪を燃やした跡から動物油脂だったといわれています。人類最初の植物油は、レバント地方原産のオリーブオイルとアフリカのサバンナ地方原産のごま油であったというのが通説です。最初は食用と言うより、灯明、薬用、宗教的儀式などに用いられ、エジプトではミイラにも使われていました。

 今は各国ごとに食用油脂の規格がありますが、オリーブオイルには国際オリーブ協会(IOC)の規格が一般的です。それは、オリーブの実をそのまま搾った“バージン・オリーブオイル”、このバージン・オリーブオイルを精製した“精製オリーブオイル”、そして精製オリーブオイルにバージン・オリーブオイルをブレンドしたその名も“オリーブオイル”です。さらにオイルを搾った滓から溶剤を使って抽出した“オリーブポーマス・オイル”があります。

 搾ったままのバージン・オリーブオイルには、さらにその酸度で4段階の規格があり、酸度が0.8%以下のものが“エキストラバージン”、酸度2%以下が“バージン”、酸度3.3%以下が“オーディナリー・バージン”、そして酸度3.3%を超え食用に適さず灯明を意味する“ランパンテ・バージン”と区別されます。

 “本当のエキストラバージン・オリーブオイル”にはポリフェノール類が多く含まれ、それによる風味、すなわちフルティーさ、苦み、辛みを感じます。オリーブの品種によってポリフェノールの含有量が違うので風味も異なりますが、特に辛み・苦みを感じないオリーブオイルはポリフェノールの含有量が少ないと言えます。

 エキストラバージン・オリーブオイルには様々な食べ方があります。“そのまま使う”のはこのオイルの風味が最も生きる食べ方と言えます。パンやサラダ、納豆、豆腐、ヨーグルトにかけるなど普段の食事に使います。“炒める・煮込む・スープ”などにも向いています。料理研究家有元葉子さんは、とびきりおいしくて、身体に害のない揚げ物を作る“たった一つの秘密”はオリーブオイルとごま油だと言っていますが、実際オリーブオイルで揚げた唐揚げ、天ぷら、そしてイスラエル料理ファラフェルは極上の贅沢品です。

 ドレッシングやソースにも合います。日本の食材、醤油、米酢、ポン酢、味噌(特に白みそがお勧め)、昆布茶などとあわせます。イスラエル産のアスカルは、苦み・辛みが強いのですが、これと醤油の組合せは“ワサビのいらない刺身醤油”の味わいです。バターの代わりにオリーブオイルを使うなどお菓子やデザートにも使われます。

 オリーブの葉も昔からお茶として飲用されてきました。最近の研究で、葉に含まれるオレウロペインなどには、抗酸化作用、血圧降下、血糖改善の効果があることが分かってきました。葉をそのまま粉砕し乾燥させ粉末にしたオリーブリーフパウダーがあり、食材として利用されています。1995年に米国の製薬会社が開発したパウダーは、葉から抽出液をとり、それを乾燥させた粉末です。葉からの抽出物に含まれるカルシウムの一種に病原性微生物に効果があると報告され、海外でサプリとして注目されています。

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