3.イスラエルのオリーブ産業
今日のオリーブ産業を鳥瞰すると、40ヶ国を超えるオリーブ栽培国があり、オリーブオイルの年間生産量は1993年には約183万トンでしたが、2013年には約320万トンを超えました。最大の“産油国”はスペインで、この年は約176万トンを生産し、イタリア約46万トン、トルコ約19万トンと続きました。イスラエルは、長いオリーブ栽培の歴史があり、1959年設立の国際オリーブオイル協会(IOC、本部スペイン)の創立メンバーの一国であるにもかかわらず、オリーブオイルの生産高は、2013年約1.5万トンでした。
世界的にオリーブオイルの需要が高まるなか、イスラエル政府は、オリーブを“国民の木から国の産業へ”広げるビジョンで産業育成を進めようとしています。オリーブに係る長い歴史と文化を背景に“高品質のオイル”に注力し、国際的なポジションを確保しようとしています。そのために、蓄積した知識と先端技術を活かし、灌漑技術と最新の栽培管理や品種改良でイノベーションを続けていく戦略です。こうした施策で、生産量を向う10年で5倍にしようとしています。
オリーブは乾燥に強く水がいらないと思われがちですが、イスラエルでも夏は最低週に2回ほどは灌水が必要です。大半のイスラエルのオリーブ栽培には、塩水(半塩水)と処理された再生水が使用され、点滴灌漑と言われる水管理技術が使われています。これは環境に優しく、果実の品質を損なわない方法で、化学肥料の使用を減らすこともできます。実際2014年にスペインは干ばつに見舞われ、その生産高が約83万トンと大幅に減少、イタリアは低温と害虫被害で約30万トンとなりましたが、イスラエルや灌漑技術を導入した国の畑では安定した生産を確保し、イスラエルの生産は約1.8万トンとむしろ増産でした。
今日イスラエルには最北のメトゥラから最南のエイラートまで約81,000エーカーのオリーブ農園があります。アラビア人とユダヤ人の農家が続ける伝統的な果樹園では、従来の方法で1エーカーあたり145本の木を植え、樹木を振動させる機械を使って実を落とし、それを多くの人手をかけネットで集める方法で収穫しています。一方現代のオリーブ農園では、1エーカーあたり526本という高密度栽培の方法を使い、収穫用トラクターが走れるよう通路を確保しながら、ブドウの収穫に使われる機械を改良した高性能のオリーブ専用の収穫機で、一人で収穫します。果実を傷つけることなく、収穫にかかる時間を大幅に短縮でき、費用も低く抑えられます。イスラエルのオリーブオイルのうち少なくとも1万トンは、現代栽培の果樹園で採れたれたものです。
収穫にかかる時間が短いと果実の酸化も防げるので、摘み採ってすぐにオイルを搾ることができ、より高品質のオリーブオイルを作ることができます。オイルを搾るまでに何週間も実を貯蔵しておく国もありますが、イスラエルのオイル製造者は古いアラビアのことわざ『木から石へ』を守っていると言います。それは「よいオリーブオイルを作りたければ、採った実を急いで圧搾機に持っていきなさい。それが早ければ早いほど、よいオリーブオイルを得られるでしょう」という意味のことわざだと現地の人から聞きました。
エキストラバージンオリーブオイルは、果実の収穫から搾油するまでの時間は24時間以内が理想です。イスラエルの最新の工場では数時間以内に搾油し、オイルの風味を壊さない品質管理が徹底しています。工場での自社の専門家による味覚や酸度の検査に加え、イスラエル政府が認定する機関でIOCの定める化学検査も受けます。この検査に合格した商品一本一本にイスラエルオリーブ協会の認証を受けた製造者とボトリング番号が記載されたラベルが貼られます。そのラベルにあるオリーブの実は、セキュリティーの個人認証に使われる指紋です。イスラエルらしく、ハイテクとオリーブが結びついています。