6. オリーブが繋ぐ世界

人類の歴史とともにあるオリーブは、古代より豊穣、平和、富などの象徴でした。旧約聖書の創世記では、大洪水の後、ハトがオリーブの小枝をくわえ洪水が干上がったことを知らせ、オリーブは豊穣と平和の象徴となりました。古代ギリシャでは、オリーブの小枝を敷き詰めたものに横になり休息を得る習慣がありました。またオリーブの枝は平和を求める、または許しを求める人が携えるものと考えられ、英語には“Hold out the olive”(オリーブを持って差しだす)というイデオムがあり、”和議を申し出る“と言う意味で使われています。

第二次世界大戦のあと国連を創設するために1945年に各国が集まったサンフランシスコ会議では“オリーブの枝は平和の象徴”としてシンボルマークとして採用され、2年後にはこのオリーブの中に世界各国を取り入れた国連旗が制定されました。

1959年に発足した国際オリーブ協会IOCの本部(スペインーマドリッド)には、ハトの石像を囲むようにイスラエルも含む創立メンバの各国代表が記念植樹したオリーブの木々が成長し並んでいます。

2007年パレスチナとイスラエルのオリーブ農家が“Olive of Peace”という商品名のもと、共同でオリーブを収穫しエキストラバージンオリーブオイルを生産することを始めました。以前よりパレスチナ農家のオリーブ収穫をイスラエル農家が支援する交流はありましたが、イスラエルのオリーブの専門家も加わり、エキストラバージンオイルのドイツへの輸出なども始まりました。しかしながら日本企業も協力したこの試みは、オイルの生産コストが高く、世界規模で進むオリーブオイルの価格競争に勝てず、残念ながら2011年に中断を余儀なくされました。

2004年オリンピック発祥の地ギリシャで開かれたアテネオリンピックの開会式に、オリーブは平和の象徴として開会宣言の舞台を飾り、さらに競技の優勝者には、金メダルのみならずオリーブの小枝を輪にした葉冠も授与されました。古代ギリシャ人は、オリーブの木は英雄ヘラクレスが豊穣の地から持ってきた神聖なものと考え、オリーブの葉冠は、古代オリンピックで優勝したアスリートに富を運んで来る象徴として与えました。

2011年3月大地震と津波に襲われた東北地方宮城県石巻市は、2014年6月“復興のシンボル”としてオリーブを植えることを始めました。2回の冬を越したオリーブは元気に成長しています。

実際オリーブの木の生命力と環境への適応力には驚かされます。地中海沿岸の国々には、樹齢千年を超える古木が多数あり、いまだに常緑樹の葉を茂らせ、実をつけています。エルサレムにあるオリーブ山のゲッセマネの園には千年を超えるオリーブの木が多数生い茂り、悠久の時を感じさせます。

今日オリーブの生産栽培国は40ヶ国を越え、日本でも栽培農家は各地に広がり、家庭園芸の愛好家も増えています。日本に合う品種や栽培方法を研究する農家、オリーブオイルを使ったお寿司、オリーブの盆栽など日本の伝統を活かし、文化の融合を目指す試みも進んでいます。オリーブが新たな世界を繋ぐ時が来ています。

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